「どんなコップで飲んでも中に入っている飲み物は一緒なので、味なんて変わらないでしょ。」
そう言って女は100均のマグカップを片手にカフェオレを一気飲みした。
「サーモスはビールのおいしいのが続くと思うんだよな」
男はラグビーの録画を見ながら、サーモスを手に冷蔵庫へ向かう。
「良いと思うのがあれば、マグカップくらい買ってもいいんじゃないの?」
男にそう言われ、女はネットショップのアプリを開いた。
「飲めればいいんだけどな、別に」
そう言いながら女はお気に入りをタップする。ガラス製のコップが表示された。
「今使っているのも、別に壊れてないし、コップ増えても場所取るだけだし」
女はそう言いながら、クーポンを探す。300円オフのクーポンを見つけた。
「まあ、予備としてひとつ買っておいてもいいかもしれないけど。」
そこで会話は途切れた。
4日後、18時ピッタリにインターフォンが鳴った。女はガスコンロの火を止めて玄関に出る。荷物を受け取り、リビングに戻るとすぐにカッターナイフを手にした。
段ボール箱から出てきたのは、ガラス製のコップ。ダブルウォールという製法で作られたガラスのコップは高い保温性に優れており、また、冷たい飲み物を入れても水滴がつかない。女ガラスのコップにそっと氷を入れ、冷蔵庫のアイスコーヒーを注ぐ。
30分料理をしていたので、女の喉はカラカラだ。女は一気にアイスコーヒーを飲み干す。コーヒーの苦みを心地よく感じ、いつものコーヒーよりおいしい気がして、女はなんだかうれしくなった。
「洗うの忘れてた!」
届いたガラスのコップを、女は優しく洗い、水で流すとラックに静かに置いた。1800円のガラスコップが2つ、狭い台所で水滴に濡れてつやつやと光っていた。
完
(この物語はフィクションです)