#30分で書くチャレンジ

A型と花瓶の水

18時37分。

女は花瓶に飾られた花に目をやった。

久しぶりに見た、花。いつから飾っていたのか?葉はまだ元気そうだが、花は心なしか色あせている。小さな花瓶に入った水は、明らかに減り、淀んでいる。

いつこの花を生けたのか、最後に水を換えたのはいつか、女は思い出せない。

いつもそうだ、と女はがっかりした。

 

気分の浮き沈み、というよりは気分の上がった時とフラットな時とがある。それは人間誰しも持っているのかもしれない。しかし、女はそんな気分の波に振り回される自分が嫌だと感じる。気分の良い時はわざわざ花屋に行き、花を選び、花瓶に生けるくらいは鼻歌交じりにできる。いったん、気分が平たんになると、花のことも忘れる。

花を生ける自分は気分が高揚しているのか?

花の水を交換しない自分が、平常なのか?

どちらの自分が本当なのか、分からない。

 

よいしょ、と女は立ち上げった。久しぶりに花瓶を手に取る。やはり花瓶の中の水は減っており、淀んでいた。そのため花瓶のグラスにはかつて注がれていた水の部分に平行線が入っている。

花の水を換えない自分に気が付くのは嫌だから、もう自分は花を生けない方がいいんじゃないかと思う。花の水を換えなきゃいけない、と思う時点で花に愛情がない気がする。

色あせた花弁がほろ、と落ちてシンクに残ったコーヒーカップの中に落ちた。

コーヒーカップにも、茶渋のようなものがついている。はぁ、と女は息を吐く。

本当の自分は、きっとズボラなんだろう。

 

だから、花を生けようと思った自分を褒めたら良いんじゃないか?

花の水を交換できない自分が平常運転で、自分は丁寧に生きることに憧れて、時々丁寧に暮らして、ほとんどはズボラに生きている。すべて、自分がその時選んだこと。

私って、ズボラなんだ。A型だから几帳面でないといけない、みたいな十字架背負って勝手にしんどくなって。変なの。女は少しだけ口角を上げた。

A型で、ズボラ。時々丁寧な生き方をしたい。それでいいでしょう。

今日は少し、丁寧な生き方をしたい自分だな。女は花瓶を一度空にして、花瓶の汚れた部分をスポンジでこすり始めた。

 

完(物語はフィクションです)

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