初めてのリワークプログラム
ーリワークプログラム、受けてみませんか?
復職に向けて、初めての前向きなアクション。こんなに心が躍ったのは何カ月ぶりだろう?ワクワクしながら、仕事用のカバンを取り出す。書類を見て必要なものをカバンに入れていく。
かつての出勤時間よりも少し遅めの電車に乗り、リワークが実施されている施設へ向かう。受付を済ませてドアを開けると、開放的で明るい空間が広がっていた。そして、たくさんの人…。休職中の人、に出会ったことがなかったので、この施設に来る人だけでもこんなに多くの休職者がいるのかと驚いた。
プログラムは一見簡単そうに見えたが、実際に1日過ごしてみると、ひどく疲れた、肉体的にも精神的にも。時間に沿って読書や瞑想や、講義。なによりこの数か月一人で過ごす時間が長かったので、集団行動にも気を遣う。休憩中のお手洗い、行列に並んで前後の人と世間話。疲れるけど、楽しかった。疲れた。
人と関わること。人と接すること。
心地よい疲労だった。
リワークプログラムに参加する人に共通する個性
私のように休職が初めての人もいたし、定年近い年齢の人で休職した回数も忘れた、という人もいた。ここに集まっている人たちは、決して心身ともに万全の状態ではなく、必ずしもここに来たくて来ているわけじゃない。でも、どの人も前向きだった。
リワークプログラムに参加している人々に共通して持つ印象がある。
それはみんな「真面目」だということだ。与えられた課題にきっちりと取り組む、最高の状態に仕上げる。他人に対しても丁寧に接し利他の心が強い。優しい人が多かった。それは、復職の条件がリワークプログラムを完了させることであっても、それ以上に今与えられている状況を最善にこなしたい、こなさなければならない、という思いが伝わってきた。
その空気感はピリッとしていて、おっとりした職場よりも、職場らしかった。ここに来る人は料金を支払って参加しているわけで、給料をもらっているわけでないのに、みんな本当に真面目に一生懸命、だった。
リワークプログラムで仲良くなったAさん
私はそのリワークプログラムで1人の女性と仲良くなった。彼女は数回休職していると言っていた。とても気が利いて、私が考えていることを察してくれた。私が気づくよりも先に「今日、疲れてない?」と声を掛けてくれるような人だった。
こんなに優しくて、細やかで、まわりを和ませる人がなぜ休職するに至ったんだろう?とても不思議だった。なぜ休職しているんだろう?と疑問に思う人は彼女以外にもたくさんいた。
きっと、真面目で細やかで、利他の心があり、自分のことよりも周りのこと考えるからこそ、組織の中で色々なことに気づき心をすり減らすことが重なるのだろう。ここにいる人たちが何度も休職することなく、長く社会で働き続けることができれば、いいのにな。
最高のリワークプログラムを「自主退学」
私の参加したリワークプログラムは、専門家の方々によって組まれた素晴らしいもので、今後の講義や作業計画に参加したかった。しかし秋から冬になるにつれ、私の体調は参加し続けることが難しくなった。途中参加したり、まる1日休むことも増え、私自身リワークプログラムに参加する楽しさよりも心身の負担を強く感じるようになった。
会社が提案してくれたリワークプログラムをやり遂げられなければ、復職が遠のくだろうし、元の部署に戻ることはできないだろう。私の参加しているリワークの施設はとても人気で、人員が空くのを待っている人たちがたくさんいると知っていた。体調が万全でなく、参加のめどが立たない私が席を持つのは申し訳ない気がした。なにより、身体が動かない。
リワークプログラムが半分ほど進んだ段階で、私は「自主退学」を申し入れた。
とりあえずゆっくり休んで。またどこかで会おうね。仲間はいたわりの言葉をかけてくれた。私は心から、仲間の早い復職を願っていると言った。そうだね、仕事でご一緒とか面白いね!それ、叶うといいね!出口まで見送ってくれた仲間たち。
帰宅しすぐに、「自主退学」したことを会社に連絡した。「そうなんですね…ゆっくり休んでくださいね」電話に出た人事担当の人は、明らかに残念そうな声色だった。せっかく色々と手配してくれたのに申し訳ないなと思った。
「受け入れ」「諦め」「挫折慣れ」
復職は遠のいたなぁと冷静に思った。休職から1年で、自分ができなくなったこと、挑戦しようとして挫折したことをたくさん経験した。良いように言えば「受け入れる」別の言い方は「諦め」「挫折慣れ」の感覚を持っていた。この時客観視できていたのか、諦めの気持ちがあったのかは分からないけど、復職自体が難しいかもしれない、大好きなこの会社から離れる決断をしなくてはいけないかもしれないと思うようになった。
復職を諦めて、退職すると決めた方が気持ちは楽になる。しかし、心の片隅にまだ残っている、気持ち。
ー大好きな会社で大好きな仕事をまたしたい。
それに加えて、リワークプログラムで出会った仲間たちも頑張っているのだから、私も頑張りたいと思った。リワークプログラムに通う仲間への思い。リワークに参加しなければ味わえなかった気持ちが生まれていた。
昨日までならリワークプログラムに参加する時間、1人部屋の中で少しの安堵感と、少しの挫折感と、大きな体の重たさを抱えた。さて、これからどうしよう。1年6カ月ある休職期間は残り半年を切っていた。
温かい涙
何もすることがないし、考えても気持ちがふさぎそうだから、寝ようか。ベッドに入る。YouTubeでも見ようかとスマホを開くとAさんからメッセージが入っていた。
「ゆっくり寝るんだよ、落ち着いたらお茶でも行こうね」
私は独りじゃないなぁ。温かい涙が流れて枕を濡らす。温かい涙を流したのは休職してから初めてだった。これからのことはゆっくり休んでから、また考えよう。涙で冷たい枕をそのままに私は目を閉じた。
続