恋愛の詩(朗読フリー)

笑い皺

「好きになっちゃったんですけど、どうしたらいいですか?」

そう言ってわたしは 首をかしげて

目の前にいる男性(ひと)の目をじっと見る

表情が変わらなければ 負け

目が少しでも泳いだら わたしの勝ち

17歳のわたしは そんな恋愛ゲームを楽しんでいた

 

19歳の春 あなたに出会った

あなたは 少し強い向かい風に前髪を遊ばれながら

まっすぐ前を向いて 走っていた

その姿は とても懐かしかった

 

懐かしいのに わたしはあなたのことを 全く知らない

どうしてだろう どうして 懐かしいんだろう

その答えが知りたくて ずっと あなたを目で追っていた

 

いつものゲームはしなかった

肌寒くなったころ わたしはあなたにお礼を言った

「あなたのことが好きです。それだけです。聞いてくれてありがとう。」

そういってわたしはゲームを放棄した

はじめて ゲームを放棄した

 

「ありがとう」

あなたは今 わたしの目の前にいて コーヒーを飲んでいる

はじめてあなたを見かけた日から 随分と月日が経ってしまった

わたしはおばさんになり あなたもおじさんになった

「ありがとう」

わたしはあなたに言う

「ありがとう」

あなたもわたしに言う

「君のせいで笑い皺が増えたみたい」

そう言って あなたは笑う

わたしも笑う

 

そして今夜も眠りにつく

わたしよりいつも先に寝る あなたの寝顔を見て

笑い皺をそっと撫でて

わたしも眠りにつく

 

「ありがとう」

あなたはわたしに言う

「(出会ってくれて)ありがとう」

わたしは(かっこ)の部分を言わないけど

いつも そう思ってる

 

わたしをゲームから抜け出させてくれてありがとう

わたしと出会ってくれてありがとう

一緒に人生を歩むと決めてくれてありがとう

 

あなたが人生を終えるその日まで

わたしは元気でいるね

わたしはあなたより長生きするって 決めている

 

あなたが瞳を閉じる その最期に見た風景は

わたしの笑い皺だらけの笑顔であるように

 

今日も 何気ない1日だけど

こんな1日の積み重ねが 

わたしたちの笑い皺を増やしていく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ここいま
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