15時。
20度に設定されたエアコンが何かを切り替えるような音がして、女は目が覚めた。朝から何も食べずにベッドにくるまって動画を見ていた。そしていつの間にか寝落ちしてしまったようだ。
また、やっちゃった。
女はスマホをタッチして、時間を確認する。15時か。まだ大丈夫だな。1月も終盤になり、年始に立てた目標をまったく追えていないことが一瞬、頭をよぎるが、気づかなかったふりをする。
ここ数年、とにかく自分を大事にしてきた。
自分を大事にしない働き方をしたせいで、体と心が悲鳴を上げた。それでもかまわずに仕事を続けた結果、体も心も機能しなくなった。そしてあんなに執着していた仕事もできなくなった。女はこれまでの行動を反省し、とにかく自分を甘やかそうと決めた、寝たい時には寝る。食べたいものを食べる。やりたくないことにはNOを言う。
心と体が元気になっても、上手になった言い訳をしながら女は怠惰を続けた。平日仕事をした日には休もう、仕事が休みの日には、休もう。自分が目指している人間像、活動、頭にはあるけど、目の前の快楽を取ってしまう。
「自分へのご褒美」が免罪符。
晩ご飯だけ作れたらいいや。掃除や今日するべきだったことは疲れていたから、体調が少し良くなかったとかいうことにしよう。
女は自分が決めた「今年なりたい自分」から全く離れた行動をした半日を思い出したくないので、スマホを左手に持って、また動画サイトを開いた。
16時49分。
いい加減、そろそろ起きよう。女はエアコンを切って、寝室を出た。ダイニングに行くと、昨夜はやる気だった自分が出しておいた手帳が目に入る。
毎日日記を書こう。毎日、なりたい自分に向けて少しずつ行動をしよう。
昨夜までは思っていた。なのに一晩寝て朝になったら、まるで違う自分がいるみたいに、手帳の存在も今年の目標も忘れて寝逃げしてた…。
負けてるな、自分に。女は少し悲しくなった。
誰から言われたわけでもない。
ノルマがあるわけでもない。
誰かに報告する義務もない。
だけど、自分で決めた今年の目標。いつかなりたい自分像。
過去の病気のせいにした。
毎日頑張っているからと逃げた。
こうやって、休みの前の日に意識高い系になって、もりあがって。休み当日に意識低い自分になって、夕方に自己嫌悪におちいるの、もう辞めたいなぁ。病気になったのは仕方ないけど、やることがあるのに逃げることを正当化したり、寝逃げをするのは良くないなぁ。
1ミリだけやろう。
女はパジャマのままダイニングテーブルに座り、櫛も通らないほどボサボサの髪を適当にまとめると手帳を開いてペンをとった。
1ミリだけ。
がんばれないけど、1ミリだけ。女は書き始めた。
