#30分で書くチャレンジ

20231107/幸せとはこういうことだ

13時13分。

女は、低い天井を見上げた。眠くないのに、寝ようとしている。道の駅で買ってきた昼食を摂り、プラスチックの容器を水道で丁寧に洗った後、シンクの中にそっと立てかけたら、午後からすることがなにもなくなってしまった。

冷蔵庫にも、充分な野菜がある。

トイレットペーパーも先日のポイントセールで、補充を終えたところだ。

小さな窓からは、夏より少し遠くなった太陽のぬくさを感じる。

昼前に干した布団は、風にゆられながら、洗濯バサミにしっかりとしがみついている。

女は電源のついていないホットカーペットの上に寝ころび、身体を横たえると毛布を体に掛けた。

ペラペラのカーペットでは、フローリングの感触がすぐに伝わり、背中が若干痛い。しかし熟睡できないからこれがちょうどいい、と女は思った。することがないので、眠ろうと目を閉じたが、眠気はこない。女は時々やっている遊びをすることにした。

薄目で白い天井をしばらく見つめてから、目を閉じる。薄いまぶたの上に様々な色と幾何学模様が浮かぶ。それが何かを確認しようとすると、模様はとたんに見えにくくなる。何かが見えるな、くらいの感覚でぼんやり眺めた方が、まぶたの裏の映像は楽しめるのだ。女は子どもの頃から夜に眠れないとこの幾何学模様を見る遊びをしていた。

大人になってからもコレをやるなんて、暇だな。と女は思った。

13時47分、女は目を開けた。

ふと、

わたしがゼロから作ったものなんて、この世の中でなーんにもないな。

そう思った。道の駅の弁当も、ポイント5倍で買ったトイレットペーパーも、冷蔵庫の野菜も、ゼロから自分が作ったものは何もない。まぶたの裏にみえる映像でさえも、まぶたを自分で作ったわけじゃない。

無力だな、でも生かされているな。

幸せなんだな。

いてて、と少し痛む背中を起こし、女はこの持て余す時間もきっと幸せのうちの一つだな、となんとなく思い、お手洗いに立った。

(この物語はフィクションです)

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