ながく、小売業に従事してきた。
そのキャリアの中で扱ってきたものは多岐に渡る。
新卒で入社した会社では、大変だった。
同一アイテムで5000円から30万円と価格帯が広く、
お客様の価値観をヒアリングすることに一苦労した。
客層は、3歳から95歳までと幅広く、
お話を伺うことは、仕事とはいえ楽しい時間を過ごした。
物を売る、という仕事は簡単なようで難しい。
お客様が「今これが欲しい」と思うものを用意するだけでなく
お客様の知らない商品を提案したり、
お客様との会話の中で、お客様さえ認識されていなかったお悩みを見つけたり、
そのうえで全くイメージをしていなかった商品を提案することもある。
私は、そういったやり取りが好きだ。
「この商品を買うつもりはなかったけど、教えてもらってよかったから、試してみる」
この言葉をたくさん聞きたいと思う。
お客様が思いもつかなかった商品を提案するので、
商品は、なるべく自分があらかじめ体験したり使ったものを勧めたい。
勝手が分かっているものの方が、
自信を持って提案できるし、
クレームにつながりにくいと思うからだ。
ー自分が買いたいものしか、販売しない。
この価値観は、お客様にとって誠実な態度だと思っていた。
最近、その価値観は、わたし自身の提案を狭め、
お客様の選択肢を狭めることになるのでは、と思っている。
つまり、私が買いたいだけを提案することは、エゴなのかもしれないと思うようになった。
私にも好き嫌いがあるし、金銭的な価値観も持っている。
たとえば「歯磨き粉には500円以上かけたくない」
世の中には、1000円以上する高機能の歯磨き粉はあるし、
実際に多く売れている。
自分には、高いな、買わないなと思っても
その商品の特性、良さを把握し
意識して、あるいは無意識に求めておられるお客様に
自信を持って堂々と提案してみようと思う。
しかし、長年の価値観や行動パターンを変えるのは難しい。
500円以上の歯磨き粉が高いと感じる私は、
おすすめの歯磨き粉、を聞かれると無意識で低価格帯のゾーンに足が向かう。
ここで一度、無意識で行動していることに気づき、
お客様が求めている価値観とは何かを確認する。
1000円の歯磨き粉をお客様にお見せすることを、恐れない。
ーいまいち、突き抜けられない。
キャリア形成でずっと感じて来たこのモヤモヤ感は、
ささいな毎日の積み重ねで、打破できるかもしれない。
毎日の少しのチャレンジが、突き抜けを後押しするかもしれない。
1000円の歯磨き粉を手に取り、私はお客様の元へゆっくり歩いていく。