エッセイ

2025年3月7日

ビルの窓に映る縮図した景色を見て

勝った、とわたしは思った

ビルの窓に映るわたしは井の中のなんとやら

何者にも成れていない組織の欠片だった

一段、一段と

階段を昇っていくのは大変なのに

転げ落ちるのは一瞬

助けての一言も

言い出せないままに

気がつけば井の中のなんとやら

狭くて暗いアパートの隅でわたしが思い出したこと

あのビルにあった広い化粧室で使うためだけに買ったシャネルのハンドクリームの匂い

あれから何度目かの冬が来て

幾つか年をとったわたしは

ひとつ、ひとつとチェックしながら

職場のトイレ掃除をする

狭い化粧室の隅でわたしが思い出したこと

あのビルの化粧室でわたしは手を洗った後

綺麗に水回りを拭いて立ち去る人間であったか

井の中のなんとやらでも

美しく在れたわたしだったか

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