癒しの詩(朗読フリー)

こころざしをはたして、

友と遊んだ川は 魚が見えるほど透明で

家からまっすぐにある山は

少しいびつで愛嬌ある形をしている

 

正午になる サイレンも

音の外れた 夕焼け小焼けのメロディも

楕円形した田んぼたちも

坂を登ったところにある小さな畑も

ここにしかない わたしを見守ってくれたもの

 

こころざしをはたして、と家を出た18の春

近所のおばさんが 見送りに来た

また帰っておいでね、とわたしに5000円札を握らせた

船に乗るわたしに 父と母はいつまでもいつまでも手を振った

鼻がツンと痛くなったので わたしはすぐに船室に入った

 

こころざしをはたして、

未だ(いまだ)叶わないわたしを

川も山も

田んぼも畑も

変わらず見守ってくれている

なのに

あたたかい5000円札も

それを握らせた近所のおばさんも

もうここにはいない

ようやくわたしは

ありがとうをいえる大人になったのに

 

あの人もあの人も逝ったのよ とこぼす母

お前は元気でいたらいい と呟く父

人の通らなくなった土手には 今年も小さな梅の花が咲いた

 

ここでできることがあったんじゃないか、

と思う

ここでできないことをやってきた、

とも思う

逃げるように集落を去ったのに

いつまでも いつまでも

いつの日にか、帰らん

わたしはそう 思っていたみたいだ

 

夢は今もめぐりて、

忘れがたき故郷。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ABOUT ME
ここいま
ご訪問頂きありがとうございます。音声配信stand.fmの配信者です。モットーは「いま、ここを心地よくいきる」です。